料理をおいしくするのは「くつろいだ雰囲気」も重要かも
実は料理をおいしくするのは味付けだけではないみたい!
最近、蒸したサツマイモや低温でじっくり焼いた肉のうまさに驚いていますが、どうもうまいと感じるかどうかは味付け以外の要素も大きいようです。
確かに奴らはうまいんですが、人間がそのうまさを感じる準備ができていないことには、せっかくの調理や味付けも無駄になってしまうかもしれません。
デール・カーネギーの「道は開ける」に
がみがみ言われながら北京ダックやフカヒレスープを賞味するぐらいなら、くつろいだ雰囲気でカラシを塗ったホットドッグを食べる方がまだましだ
というフレーズがありましたが、これはどうやら本当らしいぞ、と。
そこで今回お話するのが「風味について」なんですが、どのくらい影響するかというと、多少大味でも店に油の匂いやコーヒーの挽いた香りが充満していること、周りのみんながうまい!とか言っていることにより、いつもよりおいしく感じるそうです。
もしかすると、外食が好きな人や塩分が好きな人はもしかしたら、ただしょっぱいものが好きなのではなく、自分の好きな香りを発する食い物がみんなしょっぱいだけという可能性もあります。
何にでもしょうゆやソースをかけてしまうのも、料理の中にはっきりそれらの味がないと満足できなくなっているのかもしれません。
「この料理はどんな味かな?」ではなく、「俺の好きなしょうゆ味、ソース味、ケチャップ味、どれもしない!味気ない!足そう」みたいなことが起きているかも…と。
大抵の人がちょい足しレベルではなくドバドバかけてしまうことから見ても、そんな気がしてきます。
ただの塩分摂りすぎで鈍感になっているだけかもしれませんが。
さらに、よく麦茶をコーラと言って飲ませると非常にマズく感じるという話もありますが、アレも「コーラだよと言われることにより、飲む直前までコーラの味を無意識に思い浮かべる、脳はその味成分を探す→ない!おかしい!orコーラとして認識しているものとは味の構造が違う!何だコレ!」となっている可能性もあるそうです(本人が想定しているコーラの味と大きく違ったのが原因の場合も)。
と、このように風味は体全体で感じるもので食べ物の味に大きく影響を及ぼすため、いかに風味をそのまま味わえるようにするか?が料理の成功のカギと言えそうです。
風味=脳が拾ったピースから作ったパズル
前述の通り、風味は「食べた時に感じる味や香り(味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚を刺激するもの)」で、体を総動員して得たピースから作ったパズルのようなものだそうです。
例えばリンゴなら1300種類の香り成分を含んでいるそうですが、リンゴだと認識させるだけなら26〜30種類で可能(ガムやアメはこのくらい)だそうなので、それだけ認識できればリンゴだと分かる味はするものの、ちゃんと味わいたければたくさんピースを集める必要がある、と。
ちなみに香りがどのくらい強力かというと、糖度が違うイチゴを用意して食べてもらったところ、「糖度は低いが香り成分が多いイチゴ」の方が甘いと評価されたそうです。
イチゴは15種類の香りがあれば認識できるようで、そこに「嗅覚から得たたくさんの香り成分」「味覚で感じた甘味」「以前食べたことがあるおいしいイチゴに色が似てる」などが加わることにより「特別に甘いイチゴパズル」を脳が組み立てると。
当然ながら麦茶をコーラとして飲むことはできないように、同時に存在してもいい香りと味が必要なので、たとえ甘かろうとパズルが完成しなければ(香りが少なければ)その風味は認識されないそうです。
その理屈でいうと、砂糖を入れないフレーバーティーが甘く感じられるのも、お茶には「香りと一緒に存在してもいいと脳が判断する甘味が含まれているから」と言えそうです。
逆に香りはいいのにおいしくないアールグレイなんかは、茶葉の味が貧相なんでしょうね。
ちなみに「同時に存在してもいい香りと味」はある程度学習可能で、赤ちゃんは約10回、ラットは約30回、4〜12歳の子供で10〜20回、大人でも最大50回あれば学習可能だそうです。
例えばバラに味はないですが、バラの香りで「生クリームのような甘味」や「オレンジとカカオの酸味や苦味」をイメージできるのは、そう学習したからですね。
ビールも然り。
さらにここで、醸造家志望の学生にトラウマを植え付けたとされる、風味に関するおもしろい実験もご紹介します。
ボルドー大学のワイン醸造について学んでいる学生に、中身は同じでボトルだけが違う3種類の赤ワインを2つ、白ワインを1つ味見させました。
その赤ワインのうちの1つを無味無臭の着色料で色着けた白ワインにし、簡単に言えば「味は白ワインだけど色は赤ワイン」という物にどういう反応をするか?を見ました。
赤ワインA、赤ワインB、白ワインAがあったら赤Aと白Aは全く同じ味ということでしたが、結果は残念ながら、学生のみならず、テイスターですら騙される人が多かったそうです。
飲んだ際に赤、白それぞれのアロマ(ラズベリーとかハチミツ、レモンとか)を挙げていったそうなんですが、にもかかわらず間違ってしまったそうで、風味というのは思った以上に舌で感じる味を増強している様子。
だから味についての評論は信用ならない!という話ではなくて、騙される理由は一体何なのでしょうか?
我々は「味」を探している
簡単に言うと「これはこうだという思い込み」が、どうも我々の感覚を曇らせるようです。
「思い込むことによって、その思い込み以上のことが起きていても感じにくくなる」といった方が正しいかもしれません。
視覚や嗅覚にも影響を受けると書きましたが、思ったより大きく、たとえば
- 視覚:赤いな(白ワインである可能性が排除される)
- 嗅覚:たしかに赤ワインに含まれる◯◯の味がある(白にも赤にも共通の味要素は多く、さらに視覚で白ワインではないと判断しているため、なおさら)
- 聴覚:「どっちのワインがうまいですか」とか「今飲んだ5つのワインの中から、同じワインを選んでください」と研究員が言う(中身が違うんだと無意識に思わされる)
のどれか、もしくは複数、あるいはもっと別の要因が重なった結果、同じ物が体に入ってきているのに違うものだと感じてしまうそうです。
まあ、思い込むことで自らピースを半分くらい弾いてるような感覚ですかね。
その中から赤ワインのパズルを作ろうとするため、白ワインのパズルにはならないと。
ちなみに、同じニオイを嗅がせても瓶にそれぞれ「体臭」と「チェダーチーズ」と書いてあったら、後者のほうがいいニオイだと思われるそうです。
しかも体臭とチェダーチーズでは脳の電気信号の伝わり方も違っていたんだとか(脳すらも違う物だと認識していた)。
同じ味・ニオイでも視覚のせいで脳の処理の仕方が違うとすれば、これは強力すぎますね…。
私も過去に「家で飲む紅茶がおいしくないのはいれ方のせいでは?」と書いたことがありますが、もしかしたらお店のお菓子やジャムの香り、連れの「おいしい!ああ、いい香り!」という発言(見栄でも)に引っ張られている可能性もあるということですね。
「うまいかまずいか」ではなく「どこがうまいのか」
他に影響されずにその食品の味を最大限味わうには
- 食事に集中する(ゲームとかテレビを見ながら食べない)
- 逆に野菜や体にいいが苦手な物をたくさん食べなければならないときは、ゲームやおもしろいドラマを見ながら食べると味を感じにくい
そして、
- うまいか?まずいか?ではなく、なぜうまいのか?どこが好きなのか?
- いつもと同じか?違うか?、違うとしたら何が違うか?
を考えながら食べる(その答えが間違ってても気にしない)と、いろいろな味要素を拾える可能性が高まるそうです。
うまいかまずいか?でもよさそうな気はしますが、それを基準にするとジャンクフードなどの高脂肪・高炭水化物食品を好むようになる傾向があるそうなので、まずはどう違うか?をある程度認識できるようになってからがいいそうです。
ちなみにラットの脳を見る実験では、普通に餌を与えたグループ・バイキンググループ(異なるフレーバーの餌を12種類用意)・ジャンクフードグループの3つを用意したそうなんですが、ジャンクフードグループだけが食事量が2倍、3倍と増えていったそうです。
まあ、ラットなんでどこまで人間に当てはまるかは不明ですが…。
が、意外にもたくさんの種類を食べても食欲はブーストしなかった模様で、たくさんの種類を食べる=金がかかるから低質な安い食品(高脂肪・高炭水化物)を選びやすくなるせいで、バラエティ豊かな食事は太る!と言われているのでは?とも。
いろいろ食べるのは決して悪いことではないそうですね。
ちなみに、スパイスや果実がうまそうな香りがするのは、人間が「この匂いがするものは抗菌作用がある・ビタミンが多い」などを無意識に感じ取っているからだそうです。
一方、加熱された脂肪や糖を好む理由ははっきりと断定されていないそうなんですが、カロリーのシグナルという説が有力らしいです。
人間は効率的に糖質をとるために料理を開発したそうで、生の糖質ばかり食べていたら脳はここまで肥大しなかったという話もあるんだとか。
考えてみれば、サツマイモは生で売っている状態だとあんまり香りはしないですけど、自宅で蒸したりなんかすると隣の部屋までいい香りが漂ってきますもんね。
いい香りだと感じるのは、効率よく吸収できるナイスな糖質がそこにあるぞ!と教えてくれているんでしょうか。
生のイモは腹を壊すので、そういった食っちゃならん状態の香りは拾わないということなんですかね。
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まとめ
- 風味は味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚に影響を受けるため、食事の際はなるべく感覚をクリーンにしておくのがよい
- 味と香りが口の中で発生していなくとも、同時に感じられれば風味として認識されるため、店と自宅では料理の味が異なりやすい
- 高脂肪・(精製された)高炭水化物以外でいい香りのするものは、だいたい健康にいい、かも
ということでした。
まあ、料理は余計なことを考えずにしっかり味わいましょう、ということですね。
感覚はある程度仕方ないので、なるべくぼーっとできる時間を見つけて食べるといいかもしれません。
「そうだ。くつろいだ雰囲気で食べるホットドッグだ」と思い出しながら食べてみてはいかが?
ちなみに余談ですが、マリアージュフレールの紅茶なんかは「モンターギュドール」「マルコポーロ」「リュシカ」など、具体的に味を想像できる名ではないため、個人の脳(=経験や予備知識)によって風味をコントロールされないという点で理に適っているのかもしれません。
店内はいい香りがしていますが…。
逆に「◯◯アールグレイ」という名を見ただけで脳が「はいはい、柑橘ね」と認識し、多少薄くとも液体から知っている香りを探すためにおいしいと思われやすいならば、どこの店でもアールグレイが一番人気なのが分かる気がしますね(みんな砂糖入れてるみたいですし)。
私も紅茶の話をするときは、なるべく感覚を邪魔されない環境で飲む必要がありそうですな…。