英国の紅茶愛好家ジョージ・オーウェルに学ぶ「おいしい一杯の紅茶のいれ方」
- 「完璧な紅茶のいれ方」ネタ元が語るおいしいお茶のポイントとは
- オーウェル「ただおいしく茶をいれて飲みなさい。砂糖とか社交とかいらないから」
- ミルクティーにおいて明確に得が多いのは「ミルクインファースト」
- まとめ
「完璧な紅茶のいれ方」ネタ元が語るおいしいお茶のポイントとは
私は以前から「ストレートティーもうまいよ!」と書いているんですが、ある程度誰もが茶を飲めるようになった1940年代以降、イギリスの人はどんな風に茶をいれていたのか?を調べてみました。
1946年1月12日のイヴニング・スタンダード紙掲載、ジョージ・オーウェル(はペンネームで本名はエリック・アーサー・ブレア)のエッセイに「おいしい一杯の紅茶」という項目があったそうな。
で、多くの人がこのオーウェルのいれ方を参考に紅茶をいれていたそうです。
現代メジャーなやり方とは、どういった点で違うのでしょうか?
ちなみに、現在の英国王立化学会もこれを参考にした上で「完璧な紅茶の入れ方」を書いている模様。
ざっとまとめると
- インド茶(アッサム)、セイロン茶を使うのがよい
- 茶は濃くなければならない
- 茶漉し(多分ポットに固定されてるやつ)、モスリン袋は使うべきでない
- ティーポットはやかんの所まで持っていくことが肝心である
- 湯を注いだら、かき混ぜるかポットをゆすって茶葉が落ち着くのを待て
- おすすめはたっぷりとした朝食用カップ、つまり円筒形のカップだ
- 茶はミルクを入れて出すべきで、クリームは使うべきでない
- 砂糖は入れずに飲むべきである
です。
本当は11項目あるそうなんですが、重要なのはこの8項目なんだとか。
インド(アッサム)、セイロンを使うべき
これは「刺激に富む(つまり苦い)から」というのが理由だそう。
実はこのエッセイが投稿された時期は茶は配給制で2オンス(約57グラム)しかもらえなかったそうで、次の配給までその少ない茶でいかに「熱く濃い茶を絞り出すか?」というのがテーマでした。
なので、現在もミルクティー用とされているインドやセイロンなどの渋い茶を使うというのは納得のいく話であります。
アッサムはいれ方によっては甘くなりますけどね。
茶は濃くなければならない
「1リットル強のポットであれば、ティースプーン山盛り6杯くらいが適量だろう」とあります。
実際にトライされる方は、ティースプーンは製品によって量がまちまちな点にご注意ください。
ミルクを入れると書いてあるので、ちょっと茶葉多めなのも納得。
茶漉し、モスリン袋は使うべきでない
要は茶葉が自由に動けないのはよくない!ということですね。
熱湯・水出し共に茶葉が一ヶ所に止まるととんでもなく薄くなるのは私も経験済みなので、茶葉が行きたいほうに行けるような環境を作りましょう、と。
ちなみに、一部の人しか使っていなかったモスリン袋を挙げており、ティーバッグがこれから流行ることを暗示していたのか?とも言われています。
ティーポットはやかんの所まで持っていくのが肝心である
これは「湯は茶葉に触れる瞬間に沸騰していなければならないから」だそうです。
同時に、茶は少量ずつ、湯沸かしではなくティーポットで、ポットは暖炉のそばに置いて前もって温めておくのがよいとのこと。
発酵茶は特に葉が固いから最初の温度が大事だ!と中国茶系の本にも書いてあります。
ミルクも何も入れない派の私としては、沸騰した熱湯は賛成しかねますが。
湯を注いだら、かき混ぜるかポットをゆすって茶葉が落ち着くのを待て
オーウェルではないですが、「飲み頃は茶葉が教えてくれる(動きが止まるから)。それは2分半から3分の間だ」と書いた詩人がいたそうです。
おすすめはたっぷりとした朝食用カップ、つまり円筒形のカップ
理由としては、底の浅いカップはすぐに冷めるため適さないとのこと。
たしかにぬるいミルクティーは体が温まりませんからね。
今やるならばマグカップでもいいかもしれません。
茶はミルクを入れて出すべきで、クリームは使うべきでない
オーウェルの意見では「ミルクでなく茶を先に入れるべき」だそう。
これについては「イギリス全ての家庭内に二つの流派(ミルクは先か後か?)が存在すると言ってもよいだろう」とオーウェル自身も言及しております。
後述しますが、どちらにも利点はあるそうで、現在はミルクを先に入れる派が優勢な様子。
砂糖は入れずに飲むべきである
これはオーウェルが結構力説している(らしい)ポイント。
これは個人的に大賛成。
どのように力説しているかといいますと…
オーウェル「ただおいしく茶をいれて飲みなさい。砂糖とか社交とかいらないから」
オーウェル氏は砂糖に対し
砂糖を入れて茶の風味を台無しにするような者を、どうして真の茶愛好家と呼べるだろう。茶はあくまで苦くなければならない。ビールが苦くなければならないのと同じことだ。甘くしてしまえばもはや茶を味わっているとは言えず、単に砂糖を味わっているに過ぎない。ただの白湯に砂糖を入れてもほとんど同じ飲み物ができるに違いない。
砂糖を入れることで茶の香りを殺しておいて、真の茶の愛好家を自称できるだろうか?だとすれば胡椒や塩を入れるのも同じく理にかなっていることになる。
とコメントしております。
これは私も常日頃から思っていたことでして、実際否定しようのない真理だと思うんですが、不思議なことに現在は全くと言っていいほど話題にされていないんですね(個人的には茶が必ずしも苦い必要はないと思いますけど)。
他のブログでもオーウェルや王立化学会の紅茶のいれ方を書いたり考察したりしている人もいますけど、この「世間では砂糖好きが茶の愛好家とよばれている点」にはほとんど触れられていません。
ミルクをいつ入れるかよりも、よっぽど大事なテーマだと思うんですが…。
まぁ、それだけ紅茶は甘くないといけないというのが根付いているなら、そりゃミルクティーしか売れなくもなりますわな。
一応触れておくと、イギリス人が紅茶に砂糖を入れるようになったのは
- 紅茶と砂糖はもともと上流の楽しむもので、庶民の憧れだった
- 産業革命の長時間労働において、家庭でも職場でも短時間でカロリーを取るのに都合がよかったから
- 労働者用の住居には台所がなく、温かい砂糖入り紅茶は食事の代用となった(イモや肉を男に食べさせ、紅茶と砂糖だけで食事を済ませた女性や子供は不健康に)
- 砂糖はもともと薬として売られていたため、健康によいと信じている人も多かった
であって、決して過去の(現代も然り)イギリス人が茶のイロハを知り尽くした上でベストな飲み方として砂糖を入れていたわけではないんですよ。
たまにイギリス人に日本の紅茶を飲んでもらった!みたいなのがありますが、我々日本人全員がちゃんとした和食を作れたり魚を捌いたりできるわけではないように、イギリス人だからといって茶の目利きというわけではないということですね。
また、オーウェルにとっての紅茶は
完全に沸騰した湯を使って葉を十分に浸出させ、砂糖を加えずミルクを入れて飲むべき刺激的な飲み物
だそうで、社交の手段や機会、何かの演出や儀式とは考えていなかったそうです。
つまり、ティーパーティーとか出世のための顔合わせに茶会をするんじゃなくて、ただおいしく紅茶をいれて飲みなさい、と。
これは本当にその通りでございますね。
ミルクティーにおいて明確に得が多いのは「ミルクインファースト」
ここからはミルクティーの話になりますが、オーウェルは茶を先に入れるべきだと書いていますが、その理由は「ミルクを後から入れると入れすぎる可能性が高いから」だそうです。
「だいたいの味を覚えといて加減すりゃいいんじゃない?」とも思いますが、茶の味を殺さぬよう、少量でかつ微妙な塩梅があったんでしょうね。
それに当時はミルクの質がどうだったかは分からないので、日によって仕入れたミルクが薄かった、みたいなのもあったかもしれません。
さて、では現在のミルク議論についてのポイントを挙げておくと、
ミルクインファーストのメリット
ミルクを先に入れる利点は
- ミルクは沸騰した熱い茶が繊細な磁器に与える衝撃をやわらげ、ひび割れを防いでくれる
- 先にミルクを注ぐのは育ちのいい人がやっていることなので、育ちがよく見える
- ミルクが適度に温まる
- カップが茶渋で汚れるのを防げる
- 攪拌されて混ぜなくてもいい
- ミルクを先に注げば、ミルクが傷んでいるかわかるため、良い茶を無駄にせずすむ
だそう。
確かに紅茶用のカップは薄いんで、寒い日にいきなり熱い茶を注いでヒビが入らなくなるのはナイスですね(それでいくらか茶碗を失ったことがあります)。
また、ミルクを先に入れておけば熱くなりすぎないんで、割れぬよう事前にぬるま湯でカップやポットを温める手間も省けるということですね。
ズボラにやさしい。
茶渋は言われてみればそうかもしれませんが、ミルクの油でコーティングされればいつ入れても同じじゃないかな?と。
最後の「ミルクが傷んでいるか分かる」というのは、茶の熱で異臭が立てばすぐに中止できるそうで、確かに悪くなった肉とか魚を焼くとすぐ分かりますもんね。
「ミルクが適度に温まる」とか「攪拌される」というのはどういうことなのか謎。
ティーインファーストのメリット
ティーインファーストの利点は
- 茶とミルクの比率を正確に調整できるから
のみ、と実に明確。
私の経験から申しますと、自宅で使っているガラスのティーポットは2つとも目盛りが500〜800mlの間しかついてない(しかも4杯分とか5杯分とかで具体的に何mlか書いてない)ので、そういったポットを使っている人は最初に茶を500ml以上注げばミルクを入れすぎることはなくなりますね。
計量カップはプラスチックなんで油がつくと面倒ですし。
昔のポットはガラスじゃなくて磁器だったみたいなので、然るべき量の茶を入れてからミルクを足す方が失敗しにくいのは分かる気も。
ちなみに現在は「ミルクのタンパク質が変性してマズくならないよう、冷えたミルクを先に入れてから茶を注いでミルクティーを作る」のが王立化学会の見解だそうな。
ご参考までに。
まとめ
-
オーウェル流の茶はミルクを入れる。そして、それがイギリスの伝統的な茶として支持されている(砂糖を入れる人が非常に多いので、支持されているのはいれ方だけともいえる)
- 茶のいれ方はいろいろあるけど、とりあえず砂糖を入れるのは茶好きのすることではない
- ミルクは先に入れたほうがメリットが多い
ってな具合でしょうか。
でも、何だかんだ言って紅茶はやっぱりストレートでしょうね!
まあ、エリックさんがエッセイを書いた当時は色んな水を集めて…なんてことはできなかったでしょうから苦渋味を活かす方向に行ったのかもしれませんが、現在はエビアンがあれば砂糖を使わなくても(ある程度以上の質の茶葉ならば)渋くないおいしい紅茶を作れます。
部分的にではありますが、過去の茶好きも自分と似たようなことを考えていたことが分かるとなんだか嬉しくなりますねー。
ちなみに 私のおすすめの紅茶いれ方はこちら
参考文献