old reliable tea

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ストレートティーについて考えるブログ

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ティーバッグはクレームのせいで生まれたという何とも不思議な話

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業務用が家庭用に

イギリスでの紅茶というのはリーフで飲むか店で飲むのが普通で、使用人をたくさん抱えたお屋敷の人とか上流・中流階級の人がたくさん買うのが常識でした。

 

その後アメリカで茶が流行るわけなんですが、(貴族はいなかったけど)イギリスと同じくホテルやレストランなどの店や業務用での消費がほとんどだったそうです。

 

紅茶はどこかに飲みにいくものだったんでしょうね。

 

が、ティーバッグが登場したことにより、茶は家庭用消費が8割にまでなり、すぐさま国民的飲料に。

 

みんな紅茶大好きだったようです。

 

で、ティーバッグはクレームのせいで生まれた」という話なんですが、ニューヨークの茶商トマス・サリバンという人が紅茶のサンプルを鉛の缶に入れて顧客に送っていました。

 

これ自体はどこの会社もやっていたことだったんですが、数が多くなってくると輸送費がかさむため、絹の小袋に入れて顧客に送るようにしようとサリバンは考えつきました。

 

そうしたらとんでもないことが起こりまして、なんと顧客の一部が絹の袋ごと茶にお湯をかけて抽出し、「お茶の出が悪い」とクレームを入れてきたのです。

 

袋からいくらか茶葉を取り出して容器に入れ、お湯を注ぎ、味見しながら…ということを知らなかったそうなんですな。

 

なんか、座席指定の映画館で、空いてるからと一番前の席に座る孫連れのおじいちゃんみたいな話ですね…。

 

サリバンの得意先はレストランやホテルが多かったんですが茶の専門家が常駐しておらず対応しきれなかったため、袋を絹の布から絹のガーゼに変えて送ったところ「抽出がよくなった」と大好評で、それがティーバッグの前身になったそうです。

 

顧客の一部とありますが、それだけの対応をしたということは結構な件数だったんでしょうか…。

 

いや、逆に少数だったから「こういうお客さまには、袋を替えて差し上げるのだ」と言えたのかもしれませんね。

 

で、その後(意外にも)ガーゼだけ売ってくれという注文が続いたことで、レストランやホテルではサッと作れる袋入りの茶が歓迎されると感じたサリバンは、正式にティーバッグという商品を作ろうと考えました。

 

まさに怪我の功名でしょうか。

 

専門家がうまいことやっていたら、ティーバッグの誕生はもっと遅れていたかもしれませんね。

 

ティーバッグでいれる紅茶は簡単でかつ仕上げた味がいつも安定している」との評価で、機能性や利便性が家庭にも有用だということで一気に広まりました。

 

それ以来「茶=業務用」という認識から「茶=家でもいれられる」みたいになったそうです。

 

ただ、ティーバッグというものを誰が最初に始めたか?というのは諸説あるとのこと(自分が最初だ!という人が何人もいた)。

 

イギリスでティーバッグが流行ったのは「簡単だから」

アメリカでティーバッグが大人気になったんですが、イギリス人は文化を重んじる保守的な人々だったようで、導入にはかなり慎重だった様子。

 

が、火付け役になったのが、テイラーズオブハロゲイトのヨークシャーティーだそうです。

 

 

1960年あたりのイギリスのティーバッグ消費は3%だったそうなんですが、今では90%以上を占めており、テイラーズオブハロゲイトの広告(どんなのだろう?)が功を奏した一方で、元来の紅茶党からは否定的な意見も。

 

ティーバッグに使う茶葉も、もともと茶の香りを活かしたリーフとして仕上げる「オーソドックス法」と、茶の抽出度合いを優先した「アン・オーソドックス法」のどちらがいいか?と議論になったそうな。

 

結論としては、「どうせミルクや砂糖を入れるわけだから抽出が早い方がいい」ということになったそうで、味うんぬんよりもティーバッグという物自体を受け入れるのに時間がかかったとのことです。

 

それにしても、やっぱり茶葉を細かくしたり加工したりすると香りは結構失われるんですねー。

 

ちなみに余談ですが、19世紀までのイギリス人の味覚の迷走っぷりもいろいろな本書いてあるんですが、ある思想家が「偽茶じゃないちゃんとした茶を飲もう」「酒、砂糖を摂りすぎないように」と言ったそうなんですが、市民からの非難が相次いだという話もありました。

 

むしろ、鼻持ちならない上流が法外な価格で売っている茶・砂糖を、非常に安く卸してくれる密輸業者や偽茶業者が英雄扱いされたほどだそう。

 

まあ茶は薄くいれており、ふつうの人は偽茶かどうか分からない人が多かったともありますので、仕方がなかった面もあるかもしれませんが。

 

と、ここでひとつ疑問が湧いてきますね。

 

それは、果たして本にいろいろと意見を寄せてくれた現代のイギリス人の彼ら彼女らの言う「昔ながらの本物の紅茶」というのは、ストレートのことなのか、ミルクや砂糖を入れた状態のことなのか…。

 

イギリスでは昔ながらの伝統的な茶を取り戻そうという話もありますが、どっちなんでしょう?

 

細かい茶が主流になったのは「味が安定しているから」

ここで、「いやいや、今までリーフで飲んでいた人たちがそんなに簡単に乗り換えるかね?味も違うだろうし…」と思うかもしれません。

 

今やどこの紅茶消費も90%以上がティーバッグですからね笑

 

実際、製品として売られたティーバッグは、細かすぎる「ダスト」と、ダストの次に微細な茶葉である「ファニングス」、つまりもともと捨てていたものを換金できることに価値があったそうです。

 

当時の資料によると1ポンド(約453グラム)でリーフだと約200杯、一方ティーバッグだと300杯以上になるそうで、たとえ袋を作るのに多少お金がかかったとしても廃棄物をリーフと同じ価格で売れるため、利益が大きくなると。

 

なるほど、これで業者に得があるとして、じゃあ消費者にとっての得は?というと、それは前述の通り「味が安定していること」です。

 

紅茶好きからしたら何とも微妙な話ではありますが、イギリスやアメリカでのいわゆる「茶好き」や「大衆」は砂糖たっぷりか砂糖とミルクで飲むのがふつうである(残念ながら現在も)そうです。

 

つまり、ほとんどの消費者にとって必要なのは苦渋味でした。

 

ティーバッグの利点を述べると

 

  • 茶葉は細かくされる際に完全に酸化され、表面にエキスが滲みでるため素早く抽出される
  • これ以上状態変化できないため、熱湯を注ぎさえすればいつも同じような味になる(リーフは葉を開かせたり、味をだすために調整したりする必要が)

 

ということで、まぁ、とりあえず超早く苦い汁が作れると。

 

そして苦ければリーフだろうが、ティーバッグだろうがなんでもよかったと。

 

エキスが滲み出ることについて少し詳しく述べますと、いれた後の茶を置いておくとタンニンが酸化してめちゃ渋くなりますよね。

 

アレの濃縮バージョンが乾燥してまとわり付いているため、お湯を注ぐとスピーディに抽出されるそうです。

 

まとめると、業者は(かつては)ゴミだったものをお金にでき、消費者は時間と手間を省けたので、ティーバッグはものすごい人気となったということですね。

 

ちなみに最初に出たものは「デラックス高品質テトリー・ティーバッグ」というもので、誇大広告ぎみに「最良の高地産品種の最も柔らかい穂先だけを用いて通好みに作られた」という触込みのティーバッグだったそう。

 

でも、当時は誰もそれが底質な茶葉だと気付かなかった…みたいです。

 

気付いた人もいるかもしれませんが、多くの人はそれでよかったと。

 

まとめ

 

  • ちゃんとしたリーフ、もしくはリーフ同等の茶を封じ込めました!というものでなければティーバッグはやっぱりリーフに劣る
  • ティーバッグがここまで普及したのは「苦渋味がしっかり出ていつも同じ味になるから」
  • やっぱりみんなミルクと砂糖が好きなのね

 

ということでした。

 

最初、紅茶についていろいろと調べた際、「昔ながらの紅茶が失われたのはヨークシャーティーのせいだ」という話も見かけましたが、砂糖大国で本物の紅茶って言ってもねぇ…ってところ。

 

英国で本物の紅茶を復活させようと奮闘している、ヘンリエッタ・ロヴェルさんの本も今度読んでみようかと思います。