おいしいワインの選び方は「ブラインドテイスティングでおいしいワインを、高価だと告げて出される」ことらしい
最近「風味」について非常に気になっているんですが、「ワインほど評価の分かれるモノはないだろう」という話がおもしろかったです。
で、そこから逆算して、タイトルの通りではあるんですが
- 素人である我々が、おいしいワインを選ぶにはどうしたらいいのか?
- なんでワインはこんなに評価が割れるのか?ほか
というお話を。
実は金賞は無作為同然に授与されているのではないか疑惑
そんなことはないそうですが、実際は無作為とほぼ変わらないのでは?と思い実験したワイン醸造所の経営者がいました。
その人の名はロバート・ホジソンといい、金賞(ゴールドメダル)とついたワインの棚は明らかに売れ行きが違うそうなんですが、「なぜ自分としてはいい出来なのに、ゴールドメダルの時もあれば選外のことすらあるのか」を調べました。
普通なら「自分のワインを褒めるなんて思い上がりだ」とか言われそうですが、その考えこそが我々に智見を授けてくれたんですね。
ホジソンはカリフォルニア・ステート・フェアというワイン品評会の主催者を説得し、審査員に伏せたまま、毎日あるグループに同一のワインサンプルが出るようにしました。
30サンプルあるうちの3つを全く同じボトルから注ぎ、番号だけを変え、それに審査員が気付くのか?を見たということですね。
1〜30までサンプルがあったら1番、11番、21番は全く同じ中身という感じ。
結果は残念ながら、
- 1割の審査員だけが3つのサンプルにほぼ同様の評価をくだし、すべてに同一のメダルを与えた
- 別の1割の審査員の評価は大幅に異なり、ひとつはゴールド、ひとつはブロンズ、ひとつは選外だった
- 残りの8割はその中間に位置した
そうで、ホジソンも多少の誤差はあるだろうと予測していたものの、まさか…という感じだったそうです。
審査員さえ約90%が判断を誤ったと。
しかも、ある年はしっかり当てた審査員でも、次の年はバラバラの評価をすることがあり、どうも能力差ではない様子。
我々がちゃんとワインを評価することなどできないのでは…?という感じもしてきますね。
さらにホジソンは、ある会場で高評価をうけたワインを持って別の品評会に参加しました。
だいたい予想がつくかもしれませんが、結果は
- カリフォルニア・ステート・フェアではゴールドメダルに選ばれたワインがことごとく選外だった
- 計2400本以上のワインがゴールドメダルを取れなかった
でした。
うーん、「ワインはやっぱり難しい」というのもあるかと思うんですが、ここまで品評が大変な理由としては
- 人混みや車、外の雑音が多い
- カリフォルニア・ステート・フェアが開催される7月のサクラメント郡は平均気温が35℃らしく、日差しが厳しい
- 気温が高く、膨大な数をこなさなければならないため、気が散りやすく不調をまねきやすい
- 芳潤なフルーティーさ・濃厚なアロマをもつワインの後では、繊細なワインは不利になる
と、品評会はわりと過酷な環境なのが原因だと考えられるそうです。
カリフォルニア・チャレンジに改名しても違和感がないくらいにツラそうですね…。
ということで、全ての品評会がそういう環境でやっているわけではないと思うんですが、金賞受賞!は絶対的解答ではない、かもしれません。
集団は個人の認知を変化させる
さらに別の検証によると、特別なトレーニングを受けていない一般人のワイン愛好家は、高いワインよりも安いワインをおいしいと言う率が高かったんですが、ボトルや値札を変えると評価は逆になったそうです。
装置に横になってもらって管からワインを垂らして5種のワインを飲ませた実験では、2種を偽装し2回出しました。
5ドルの安物は45ドルのボトルに、90ドルのワインは10ドルの安物として出されたんですが、値段が高い(と言われた)ワインを飲んだときのほうが脳の報酬系が刺激されていたそうです。
この脳のスキャンによって「自己欺瞞」、つまり
- 分かってるけど自信がないからそう答えているのでは?
- 本当は違うと心のどこかで感じているけど、でも値札に高いと書いてあるし、味音痴だと思われたくなくてそう答えているのでは?
というわけではなかったことが判明しました。
値札を見たり、研究員や会場の「このワインは100ドルもするんですって!」「アメイジング!」なんてのが聞こえたりしただけで、本当にそういう物を飲んだかのように脳が反応したということですね。
「Quiet 内向型人間の時代」という本に、被験者が集団の意見は間違っていると知っていながら同調したのか、それとも集団によって認知が変化させられたのかという話がありましたが、それに近いかもしれませんね。
ちょっと説明しますと、学生たちを集めて、長さが違う3本の直線が描かれた図を見せ、どれが一番長いかを尋ねる実験をしました。
そこで
- ふつうに質問をした場合、95%の学生が全問正解した
- グループにサクラを仕込み、同一の間違った答えを声高に主張させると、全問正解者の割合は25%にまで低下した
つまり、約75%の学生がサクラに引っ張られて誤答したんですね。
また、別の実験でコンピュータ画面で2つの異なる3次元の物体を見せ、最初に見た物体を回転させると2番目に見た物と同じになるか?を訊きました。
- 被験者がひとりで答えた場合、誤答率は13.8%
- 集団で自分以外の全員が間違った答えを選んだ場合、誤答率は41%
とのことで、なぜこんなにも周囲に同調しちゃうの?と脳をスキャンしたら、どうも「認知が変わっていた」らしいぞ、と。
集団によるプレッシャーは不快なだけでなく、あなたが問題をどう見るかを実際に変化させる
集団がまるで幻覚誘発物質のように作用することを示唆している。集団が答えはAだと考えれば、あなたはAが正答だと信じてしまう傾向が強い。「よくわからないけれど、みんながAだと言っているから、そうしておこう」と意識的に考えるのではなく、「みんなに好かれたいから、答えはAにしておこう」というのでもない。もっとずっと思いがけないことが、そして危険なことが起こっているのだ。バーンズ(エモリー大学の神経科学者、グレゴリー・バーンズ)の実験で集団に同調した被験者の大半は、「思いがけない偶然で意見が一致した」から自分も同意見だったと報告した。つまり、彼らは集団からどれほど強く影響されているか、まったく意識していない
と。
これがワインでも起こっているぞ、という感じですかね。
品評会でも、(無言でやるのかもしれませんが)横で先に飲んだ審査員が「フルーティーだな」「ハチミツみたいだ」なんて言ったのを聞いて他の審査員の多くが頷いたりすると、なんだかハチミツみたいな味がしてくると。
しかも「金賞受賞」「◯◯ランキング第1位!専門家大絶賛!」「レビュー500件、平均評価4」とか書いてあることも、集団によるプレッシャーになるとは思いませんか?
グッとくるものがありますよね。
ああいった字を見ると、扁桃体の活動が活発な人(内向型に多い)以外は引っ張られて高評価を押してしまう可能性があるので、ご注意をということでした。
ぜひ、ブラインドテイスティングをしてみてはいかがでしょうか?
では、我々は何ができるのか?
じゃあ我々はどうしたらいいかといいますと、味覚は環境に影響を受けるので、なるべく余計な要素を省くとよいそうです。
ミラーリングなんかと同じで、おそらく効果を知っている人には、完全ではないでしょうが効き目が薄くなるかと思いますので、知り合いに出す際の参考にでも。
やりやすいものとしては
- 皿やグラスの重さ
- 容器の色
- 音
でしょうか。
皿やグラスの重さ
ヨーグルトなんかだと皿が重たいほどおいしいと感じられたそうで、これは無意識のうちに濃厚さや粘度の強さ(安物ではなさそう、ギリシャヨーグルトみたい!とか)を期待した結果だそうです。
皿が重たいだけで甘みや風味が強く感じられたそうなので、他人に出すときは重いグラスの方が満足してもらえるかもしれません。
容器の色
こちらはストロベリームースですが、黒い皿と白い皿で出したところ、白い皿のほうが明らかに甘いと評価されました。
これはショートケーキやミルフィーユのイメージかもしれませんが、真っ赤に熟れたイチゴに白い皿が映え、甘さへの過度な期待があったためと考えられるそうです。
どうですか?
どうやら脳は、味を期待すると補正してくれるようです。
もしかしたら「黒い皿は本来の味より甘く感じておらず、白い皿が本来の甘さ」なのかもしれませんが、「黒い皿はお蔵入りかも」と言わしめるほどの大きな違いがあったそう。
私もカフェなんかで黒い皿を見ると瞬間的に高カカオのダークチョコレートの映像が浮かぶので、分かる気もします。
甘いワインやドリンクを飲んでもらいたいときは白基調のダイニング、ちょっと辛めや重めのワインを味わってもらいたいときは黒を多めにしたインテリアにするといいかもしれませんね。
音(やイメージ)
劇的な音楽は赤ワインに深みや重厚感を与え、うきうきするようなポップミュージックは白ワインに軽やかさを与えるそうです。
前者はカルミナ・プラーナ、後者はJust Can't Get Enough(ブラック・アイド・ピーズ)が例に出されていました。
クラシックを聴きながら過ごすのが優雅な感じはしますが、ワインや紅茶を飲む際はちょっと気を付けるようにしましょうかね。
また、潮騒の音やカモメの声を聴くとカキがおいしく感じられたそうです(逆に、牛や鶏の声を聴かせる、観葉植物を置く等では魚介への評価は下がった)。
(かわいい)
イメージが湧けば味に影響するので、ワインの付け合わせにする料理が魚介なのか、肉なのかによって、店内の絵やオブジェクトを草原にしたり、砂浜にしたりするのもいいかもしれませんね。
さらに(どうやって実験したかは不明ですが)コーヒーメーカーの音が高価な物だと、いつも通りのマシンに比べて10%評価が上がったそうです。
うーん、こいつを応用するならステーキを出す場合はジュージューという音を、トンカツを出す場合はカラカラと揚げている音をお客さんに聞かせる、聞こえる店造りにしたほうがおいしいと思われやすいという感じですかね?
ちなみにワインは香り成分が非常に豊富なので、そこまでマッチしておらずともお客さんが色々なイメージで風味を拾う可能性があるそうなので、高いワインはおいしいと思ってもらいやすいそうです。
ワインはほとんどの食べ物と香り成分の共通点があるそうで、チーズとワインが合うのも共通した成分・味がとくに際立つからだそう。
これは紅茶とお菓子、料理を合わせるときも参考になりそうですし、香りを際立たせるのがうまさを演出するなら、薄い紅茶ではあまり期待できないかもしれませんね。
とまあ、以上のことを気にしつつ普段は飲んでいただいて、誰かにワインを持っていく際は「自分や多くの人がブラインドテイスティングをしておいしかったワインを、高価だと告げて出せ」ということでした。
「ブラインドテイスティングしておいしい=素で感じられる味成分が多い・濃い」ということにもなるそうですからね(いい肉は香りからしてうまいのと同じ)。
また「このワインは高価なんですよ」と言われると、いつもよりおいしいような気がするという感じですね。
そうでなくとも、おいしいと思ったのは自分だけでも本当においしいと思ったならばそのポイントを細かく、自信を持って伝える(外向性が高く見える)ことによって好意的に思われやすいそうなので、熱く語るのも意外と悪くないのかも…?
そのへんも「Quiet 内向型人間の時代」に書いてありますので、興味がある方はぜひ。
まとめ
- 品評会はけっこう過酷で評価を誤る可能性があるため、金賞は目安程度にしておくといいかも
- 集団の解答は個人の認知を変化させるため、大勢によって決定されたっぽいものや多くの人が集まる場では、あまり味わおうとしないほうがいいかも
- そこまで大きな差ではないものもあれど、皿の重さや色、雰囲気で味が変わる
ということでした。
ちなみに風味や満腹感全体に言えることではあるんですが、「よりおいしくさせるため」というよりも「変なところで評価を下げないため」と言ったほうが合っているかもしれません(もちろん両方あると思いますが)。
それこそ農場や牧場のレストランでヒラメのムニエルとかペスカトーレ、カキを出したら何かしら言われそうではありますが、それは「草の香りや風があると魚より肉がうまくなる」というよりは「ここで食べるには違和感がある」という感じかと思います。
「(違和感に余計なリソースを食われて)評価がいつもより下がった」という感じじゃないかな?と。
私は料理がうまければそういうのは全く気にならない人間ですが(和食屋で山菜ピザなんかが出てきたらワクワクする)、実験すると結構気になっている人はいるようなので、注意していただくとよろしいかもしれませんね。
ちなみに私が好きなワインはこれです。
参考文献はこちら。