小話:煎茶に合う水は名水じゃないらしい/緑茶がみんな似たような味なのはなぜか?など
ちょっと短めのお話を。
煎茶に合う水は名水じゃないらしい
結構衝撃の話だったんですが、煎茶にしたら一番美味しい水はどこの水だったかというと、「東京の水道水」だったそうです。
なぜか?というと理由は2つあって、1つ目は茶の種類です。
現在、日本で販売されている緑茶のほとんどが「やぶきた」で、緑茶がコーヒーや紅茶みたいにエチオピアとかダージリンと品種名を書かないのは、多くの店の商品札がやぶきたオンリーになってしまうからだそう。
非常に香りと甘みが強いそうで、安くてたくさん獲れる茶の代表的な存在のようです。
で、参考文献が執筆された1996年時点での、やぶきただけが持つ特徴が「カルキを消す」というものだそうです。
消すというよりかはカルキに負けないだけの香りと味の濃さがあり、他の品種はどうしてもカルキには負けてしまうとのこと。
まあ、現代はどうか分かりませんが、当時はカルキを飛ばすのに20分くらいは加熱しないとみたいな話もあったそうなので、やぶきたは手間がかからないという点でも優良なんでしょうね。
2つ目の理由は煎茶に合う水で、飲んでうまい水よりも、無味無臭の方が煎茶とは高相性だそうです。
東京の水道水も取水地は複数あるので違いは出てしまうそうですが、どうも煎茶から見れば唯一の欠点がカルキだそうで、やぶきたがその欠点を補ってくれるためおいしくいれられるとのこと。
小川八重子さんの「暮しの茶」という本によると
- 名水とよばれた水は、茶の湯つまり抹茶のためのよい水であり、必ずしも煎茶に合うわけではない
- 名水の水質も条件が変化して昔ほどではなくなった
- 蒸留水は微妙な味わいに欠ける
- 水道水は浄化技術の進歩により、無味無臭の理想に近づきつつある
とのこと。
どうやら実験の際、日本各地から井戸水、湧水、酒造用の水、ミネラルウォーター、蒸留水、各地の水道水などを集めて、水質センターの味ききにも協力してもらったそうです。
それで東京の水道水が一番よかったと。
その際、水道局水質センターの所長にも聞いたら「そんなはずはない。まずいまずいと言われたことはあるが、うまいと言われたことはない」と言っていたそうです。
東京の水事情を知らずとも「まさか」って感じですよね。
いい茶をいれようと思ったら水にもこだわりたくなるかもしれませんが、それはぜひ茶の湯で、ってことですね。
緑茶が似たような味なのはなぜか?
日本茶のほとんどがやぶきたという話を上記でしましたが、緑茶はストレートが珍しいそうです。
いろいろな茶葉をブレンドするのが当たり前らしく、上級下級を混ぜて味を一定?にしようしているような作り方だそうです。
これは良く言えば「どれもある程度は飲める味」、悪く言えば「どれも似たような味」といえます。
どういうわけか、「その土地で取れた個性や風土の味を楽しもう」というよりは、「大きく当たりもしないがハズレもしない物を作ろう」という感じになったようですね。
なので「どうか大衆茶をちゃんとした日本茶だとは思わないでほしい」とのことでした。
水出し茶は「奥行きがなく浅い」お茶
水出し緑茶についてのお話も書いてありまして「非常に分かりやすいけれども底が浅く、その分、厚化粧が目立つといった感想を抑え難かった」という感想が(これはこれでなかなかいいが、今ひとつ香気が足らぬとも書いてありました)。
また
が、それは水出し紅茶の宿命かもしれない。
なにしろ本来の茶と変わらぬ水色、香味を冷水で浸出させようというのだから当然かなり(無理な?)工夫を茶葉に施さねば。
普通より長く蒸し、もみの工程で普通より強い圧迫力を加え、時間も長くして、茶の成分が出やすいよう工夫されている。
深蒸し茶にも同じ傾向があり、「大変分かりやすいが奥行きの浅いものになっている」と…
また
一種の早分かり、インスタント食品の性向を備えていることは否めないだろう。それだけにどこかに人工臭を感じさせる無理がある。
インスタント化の過程で、もっとも失われたものは何だろうか。
それはやはり茶が本来持っているはずの香気である。この香気も新茶がもつやや青臭い香りをふくめてなかなか複雑なものである。どちらかといえば中国茶がもつような清涼香、つまり茶本来が仕組んでいる本格的な香気をさすと考えた方がよさそうである。
ということで、これが本当ならばヘタに水出し用茶なんかを作るべきではなさそうですね。
普及したとしても本来の茶とは違うわけですし…
なので、ちょっと贅沢な感じで「普通の茶を水に24〜48時間浸けておいてじっくり香りや甘みを出す」というのがベストな水出し茶の飲み方かもしれませんね。
そう考えると、店で濃くしっかりとした水出し茶を作るのは、保存・個数管理などの点で大変ですな。
緑茶は熱湯ではダメな理由
緑茶が熱湯ではダメな理由は香気が失われやすい、タンニンが濃く出て飲みにくくなるなどありますが、意外にもその理由は「茶自体が酸化してしまうから」だそう。
日本茶の一番の特徴は全く発酵させていないことだそうですが、高熱を加えるとタンニンが酸化され、緑茶の香りや味が低下するとのこと。
香りには自然香とタンニン香があるそうなんですが、酸化されると後者が優勢になり、緑茶のよさが消えてしまうそう。
高温だと悪い部分が抽出されるというよりは、酸化によって緑茶の持ち味が失われるからといったような記述もあり、せっかくだから唯一自然の香りを残している緑茶を最大限に楽しもう、という感じなんでしょうね。
茶本来の味を味わえるのは日本茶だけの特徴らしいんですが、これは米とか魚、生食品が日本人に好まれるように限りなく生のチャに近い味があったからでは?という話もあります。
確かに寿司とかお茶漬けに紅茶は微妙に合わない感じがしますもんね。
そう考えると、緑茶の飲量が低下しているのは食の欧米化も原因かもしれませんね。
肉やパンに日本茶は合わないですし、油脂を固めて口の中をスッキリさせるならば日本茶の2倍タンニンが入っている紅茶や中国茶の方が都合がよさそう。
ちなみに紅茶は酸化しまくっていて多くのタンニンがカテキンに変わっているため、やはり温度低めか硬水で渋みを抑えてあげるのがいいっぽいです。